3《テレビはすべて生放送だった》

 既存メディアのDNAの中で、初期のテレビをもっとも支えたDNAは、映画よりもラジオだった。VTRが登場する前のテレビは、すべて生放送だった。VTRが登場して、VTR編集ができるようになってからは収録現場は映画の撮影現場に接近したが、生放送という形式は映画屋さんのもっとも不得意な分野だったのである。
 「本番スタート!」のカチンコで始まり「カット!」で終わる映画の現場は、ノーカットで長まわしするシーンは少ない。極端に言えば二人の会話のシーンを一セリフずつ切り刻んで撮影する。こうした短い撮影に慣れた映画俳優は、長い芝居やセリフを覚えなくてよい。映画のスタッフや俳優は、そうした短いカットの間の緊張感の中で仕事をしてきたのである。テレビの生ドラマに対応できる人がきわめて少なかったのも無理はない。映画の大スターがテレビドラマに初出演するようになったのはVTRができてからである。
 それに対して、新劇などの舞台俳優は、生放送時代の連続長芝居に十分対応できたのである。生番組は秒単位の放送フォーマットに合わせて、スタートの「キュー」を出したら最後、CMタイムまでノンストップの芝居を続けなければならない。カメラや集音マイクもノンストップで動く。本番でだれかが何かを間違えば、そのままそれがオンエアされ、家庭に届いてしまう。そのCMも当時は手動で担当者が出していたから、出し間違いがないとは言えなかったのである。
 失敗は出演者に限らず、チャンバラをやっている侍たちの頭の上にあるマイクがカメラに写ったり、床に這いつくばってカメラのケーブルをさばいている助手がフレームに入って来たりする。そのような生本番を怖がらなかったのは、やはり生本番が多かったラジオの出身者だった。