6《幾つかの番組たち》〜『ゲゲゲの鬼太郎』編〜
昭和42年某日、東映の本編(劇場映画のこと)の営業から異動したばかりの渡辺亮徳テレビ課長(後に東映副社長)が水木しげる原作『墓場の鬼太郎』という企画を持って来た。マンガ好きでお化け好きの私は、とっくにこの作品を愛読しており、これをアニメにすればヒットすることも予想できたが、この「墓場」というタイトルに乗ってくれるスポンサーがいるとは思えなかった。
「亮徳さん、墓場じゃ売れないよ」。「売れないかも知れないけど、せっかく持ってきたんだから、このソノシート聞いてみてよ」。私は彼が置いていったソノシートを聞いて、びっくりした。テアトル・エコーの名優熊倉一雄の消え入るような声で主題歌(水木しげる・詞、いずみたく・曲)が既にできていたのである。「ゲ・ゲ・ゲゲゲのゲ……」に始まり最後の「……お化けにゃ学校も……試験もなんにもない」には笑った。さすがは水木さんの作詞であった。でも、ちゃっかりした亮徳さんのことだから、番組が決まる前に身銭を切って主題歌を制作するはずはない。おそらく、テアトル・エコーが夏休みか何かの子供向け公演のために作ったものを、水木さんからお借りしてきたのだろう。
私は亮徳さんに電話した。「主題歌を聞きました。タイトルの墓場をゲゲゲに替えれば、営業が乗るかもしれませんが」。亮徳さんに否やはない。私は社内で編成部長や映画部長、怖い営業の方々にソノシートをむりやり聞いてもらった。彼らも売れるとは言わなかったが、主題歌を聞いて「これは当たるよね」と言ってくれた。
それにしてもあの作詞はなぜ「ゲゲゲ」で始まったのだろう。歌いだしが「ギョ・ギョ……」とか「ヒュードロドロ」だったら絶対テレビになっていなかっただろう。あの歌のおかげで鬼太郎はテレビに登場できた。『ゲゲゲ』は後にカラーになり、何度か新シリーズになり、今も放送中である。